「天狗になってたまるか」

2005年9月14日

青年社長(上) (角川文庫)

青年社長(上) (角川文庫)

大学卒業後ベンチャーとして始めた会社が、「和民」などを経営し今や日本を代表する外食チェーンにまで発展したワタミの渡邉美樹社長のこれまでの半生を綴った「青年社長」を読みながら常に頭に浮かんでいたのは、「これだけすごい人がいるのだから、自分などちょっとうまく行ったくらいで天狗になってはいけない」ということだった。

子どもの頃からの「社長になる」という夢に向かって、大学卒業後は経理を学ぶために経理会社に就職し、半年で身につけると、今度は企業資金を貯めるために、当時その労働の過酷さで有名だった佐川急便のセールス・ドライバーとして一日22時間労働を行なう。もちろん会社を起こした後も、次々に大きな問題が起こるが、そのたびに圧倒的なパワーで乗り切ってしまう。その一つ一つに対して、自分だったらどうするかな?ということを想像してしまうが、とてもではないが真似できないと、その行動力に感服してしまう。

この本の中でもたくさんの人たちが登場するが、共通するのは、みんなこの青年社長のほとばしるような熱意にほれ込んでしまうということだ。とにかく自分の夢に向かってすべてを賭する姿に魅了されてしまう。少し前にそのワタミが全面禁煙の居酒屋を開店するというニュースで渡邉社長がインタビューに答えているのをテレビで見たが、不思議なもので、ほんの数秒だったにもかかわらずその魅了は十分に伝わってきた。

たくさん印象的な場面があったが、中でも一番最後が特に心に響いた。なぜなら、この本を読みながら常に自分の戒めとして感じていたことが、まさに最後のことばとして記されていたからだ。

念願の株式店頭公開を果たした渡邉が、自戒を込めて全社員に向けて次のようなメッセージを書く。

「つまりわれわれは、絶対的な見方をするとき、ようやくスタートラインに立ったばかりなのである。他社は意識するな。われわれの敵はわれわれ自身であり、昨日のワタミフードサービスに勝ち続けるのみである。素晴らしい人材が集まっている。社会的信用も高まっている。いまこそ、いまこそチャンスなのである!天狗になっている暇などない。天狗になってたまるか。」

ここまで読んだ時に、あらためて我が意を得た気がした。これだけの人が「天狗になってはならない」と言っている。その域に到底達しない自分は、ほんのちょっとしたことでいい気になってはならないのだ。

常に自分との戦いであり、他人は関係ない…。これ以上、研究者にとって重要なことばはないのではないだろうか。にもかかわらず、これほど他者を嫉妬し、ちょっとしたことで天狗になる職業もないだろう。残念ながらそのような性質を持ったものであるのかもしれない。それならばなおさら、「天狗になってたまるか」と常に自ら戒めることはことのほか重要であるように思う。

いよいよこれから学会での発表が始まる。十分に準備はしてきたので、あとは真摯に自分のこれまでの研究成果をぶつけて、聴きに来てくださる方々の意見に耳を傾けたいと思う。